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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)11号 決定 1992年7月31日

抗告人 川口明広

相手方 川口香

主文

原審判を次のとおり変更する。

1  相手方は、事件本人両名が○○乳児院に入所中、予め○○乳児院と具体的な面接日、面接時間を協議のうえ、毎月1回月曜日から金曜日までの間のいずれかの日の午前中、同乳児院において、同乳児院の職員1名の同席のもとに事件本人両名と面接することができる。

2  抗告人は、相手方が上記のとおり事件本人両名と面接することを妨げてはならない。

理由

1  本件抗告の趣旨は、「1原審判を取り消す。2相手方(原審申立人)の事件本人両名に対する面接を許さない。」との裁判を求めるというものであり、その理由は別紙のとおりである。

2  当裁判所の判断

当裁判所は、原審申立人と事件本人両名との面接交渉については本決定主文のとおり定めるのが相当であると判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原審判の理由説示(原審判2枚目表6行目から同8枚目表2行目まで)のとおりであるから、これを引用する。(但し、原審判中、「申立人」とあるのは「原審申立人」、「相手方」とあるのは「原審相手方」と読み替えるものとする。)

(1)  原審判2枚目表6行目の「当裁判所」をいずれも「神戸家庭裁判所」と改め、同8行目の「結果」の後に「(原審)、当審において原審申立人及び原審相手方から提出された資料等」を付加する。

(2)  同4枚目表9行目の「の円満」を「を円満に調整すること」と、同10行目の「当裁判所」を「神戸家庭裁判所」とそれぞれ改める。

(3)  同4枚目裏3行目の「一方、相手方においては、未成年者両名を引き取ったものの、」を「原審相手方は、原審申立人が前記マンションから無断で家出をした後、しばらくは原審相手方の母の協力を得て、事件本人両名を自己の手元で養育していたが、」と改め、同5行目の「引き取り後」を削除し、同末行の「突き止め、」の後に「平成2年2月22日、」を付加する。

(4)  同5枚目表1行目の「と面接中、」を「との面接を果たしたが、その際、これを」と改め、同11行目の「同調停は」の後に「同年12月18日」を付加する。

(5)  同5枚目裏12行目の「申し立て、現在係属中である。」を次のとおり改める。

「申し立てたが、調停は不成立となったため、平成4年1月、神戸地方裁判所に離婚等請求訴訟を提起し、その訴訟において事件本人両名の親権者を原審相手方と定めるよう求めており(同裁判所同年(タ)第×号事件)、これに対し、原審申立人も、同年5月、反訴を提起して、事件本人両名の親権者は原審申立人と定めるべきことを求めている(同裁判所同年(タ)第××号事件)。

(6)  同6枚目表5行目の「他方、」を「原審申立人の2度にわたる家出は、いずれも、事件本人両名の養育監護が、」と、同8行目から9行目にかけての「ことから、前記のような家出に及んだもので、」を「ことなどが主たる原因であって、」と、同末行の「当裁判所」を「神戸家庭裁判所」とそれぞれ改める。

(7)  同6枚目裏6行目の「前記10において」から同7枚目表1行目の終わりまでを次のとおり改める。

「前記10及び14において認定したとおり、事件本人両名の出産後に訴えていた原審申立人の睡眠障害、抑うつ感等の症状は既に消失し、原審申立人は、現在、通常人と同様に店員として稼働しており、事件本人両名との面接に支障となるような病的症状は存在しないことが認められるから、原審申立人の精神状態が不安定であることを理由として、原審申立人と事件本人両名との面接を許さないとするのは相当ではない。」

(8)  同7枚目表5行目の「満2才」を「満2歳9か月」と改め、同7行目の「しかし、」から同11行目終わりまでを次のとおり改める。

「しかしながら、事件本人両名のような幼児について、父母、特に母親との交流を図ることは、幼児の健全な発達を促進するものであるから、できるだけこれを認めるのが相当であり、また、そうすることが長期的には事件本人両名の福祉に適うというべきである。(ことに、本件においては、現在、原審申立人と原審相手方との間の離婚訴訟が係属中であって、いまだ離婚に伴う事件本人両名の親権者が決定されていない段階であるから、一方の親である原審申立人と事件本人両名の交流を一切断ち切ってしまうことは極力避けなければならない。)

したがって、事件本人両名に一時的な動揺がありうることを理由に原審申立人と事件本人両名の面接交渉を否定することは許されないというべきである。」

(9)  同7枚目裏1行目の「未成年者両名」から同3行目の「上記理由をもって、」までを「後記のとおり、事件本人両名が預けられている○○乳児院において同乳児院の職員の同席のもとで月1回面接を認めるに過ぎないものであって、原審申立人と事件本人両名との面接を認めたとしても、原審相手方の主張するような不測の事態が生ずるおそれはないものと考えられるから、」と改め、同8行目の「しかし、」から同11行目の「こととする。」までを削除し、同末行の「面接の」の前に「面接の期間は、とりあえず、事件本人両名が○○乳児院に入所中の期間とし、面接の場所は同乳児院に限ってこれを認めることとし、」を付加する。

(10)  同8枚目表2行目の「ものとする。」を「ものとし、面接の際には、同乳児院の職員1名の同席を求めなければならないこととする。」と改める。

よって、原審申立人と事件本人両名との面接交渉について本決定主文のとおり定めるとともに、原審相手方に対しこれを妨害してはならない旨を命ずるのを相当と認め、原審判中のこれと異なる部分を変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮地英雄 裁判官 山崎未記 亀田廣美)

(別紙)

一 原審判の認定した事実関係については、添付の陳述書(2通)に詳述してあるように、事実と大きく食い違っている。主要な点についてのみ述べる。

1 理由一3において、「申立人が未成年者両名の世話と家事に追われ」とあるが香は退院後間もないこるからしばしば外出し、夜11時ころになることもあった。又、香の父親は、手伝いをするどころか煙草1つを取るのにも香を使い、毎日のように深酒をし、あげくは公然と神戸市福原に遊びに出かけるような人物であって、到底「心労の毎日」を送っていた等といえるものではない。

2 同一4中、香が「未成年者両名を父親に託し、買物に行くと告げて…単身東京へ家出した。」とあるが、これは父親と共謀してのものであると思われる。失踪当日である12月1日夜11時半ころ、忘年会で遅くなる旨明広が架電したところ父親は「買物やろ。」と答えているが、新生児を抱えた母親が夕刻から外出し、深夜になっても帰宅しないことに何の不安も感じていないのは、香の行動を了承していた何よりの証在である。もし、真実知らなかったとすれば、そのような新生児を置いたまま長時間外出するという香の行動が、何の不安も感じさせないような、特段めずらしくもなかったものであるとしか考えられず、同人が未成年者両名の世話で疲労困憊であったとは言えないものである

3 同項中、明広の「母は、申立人の家出を母親として許し難い行為として非難」したとあるが、同人はこの時点では何も言ってはいない。

4 更に同項中、香の父親が明広の「母親に対しては未成年者両名を引き取って、その世話に当たることを」要求したとあるが、これはあまりに皮層的な事実整理と言うべきである。実際は、父親は大酒に酔い、明広の母親に対し、「お前とこの子やろうが。連れて帰らんかい!わしらは元の様に2人で暮らすんじゃ。」と怒鳴っているのであって、香とその父の「異常な結びつき」を示すものである。

5 一6には、香が「昼間は相手方(明広)の実家に出向いて、未成年者両名の養育に当たる」とあるが、全く事実と異なる。僅か2~3回「赤ちゃんの顔を見に来た。」と立ち寄ったにすぎず、子供を抱こうともせず、いつも父親が同伴し、10分程で帰ってしまう有様であった。従って、「子供の義育に当たった」等とは程遠いものである。

6 同一8には、この時点になって香が実家に帰りたい旨訴え出したかの如き認定となっているが、事実に反する。実際は、結婚前から「定期的に実家に帰る」ことを条件に婚姻したもので、婚姻直後から異常なほど、実家に帰ることに執着していたものである。

7 同一12には、香が未成年者の居所を教えてほしいと度々申し入れていた旨の記述があるが、ただ2回電話で「赤ちゃんをどこにやった。」と聞いて来ただけのことである。また、「神戸○○○○園」に来たときも、香の父親は酩酊状態であった。

二 以上の点に加え、何よりも勘案すべき点は、香は未成年者らに対し、母親としての愛情が欠落している。

<1> 愛情をこめて抱擁することがない。

<2> 授乳時も、抱き上げて与えることをしない。

<3> おむつが切れたと言って、青ゴミ袋をおむつ代わりにあてている。

<4> 子を置いて2度も家出をする。

<5> 出産後間もないころから「男の子を実家の養子にほしい」と主張している。

<6> 健康な父親を子供より異常に大切にする。

三 特に右<5>の点から、香は家系を守るということから、男子のみに興味があるのであって女子は当初から眼中にはない。面接交渉にこだわるのも、その点からのことである。これにひきかえ、明広とその母親は嬰児段階から未成年者を引き取って、今日まで育てて来ている。未成年者は母親を知らず、必要も感じていない今、いきなり「母親」の存在を知らせ、面会を強要することは、未成年者に徒に恐怖感を与え、精神的にも大きな負担を感じさせるものである。更に、「○○乳児院」内での行動は多数の者が監視できても、その「行き帰り」についての保障は何らなされていない。又、面接日及び面接時間も「午前中」というだけで、その具体的内容の特定については、香と乳児院が定め、明広らは関与できないことになっており、不当である。

四 以上から、香の未成年者に対する面接交渉権は、許されるべきではない。

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